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2007年 09月 06日
梅さん。part4

  「線香花火。」

  「せんこうはなび?」

  「うん。こないだ行ったカフェでもらったんだ。
   もう夏も終わりっぽいじゃん。一緒にやろ?」

  「おまえはよくそういうもん持ってんな。」


そう言ってすたすたと歩いていってしまう。

梅は歩くのが早い。
私は自分のヒールの音を聞きながらゆっくりと背中を追う。

交差点で梅が待っている。
のではなくて、どこかを見つめている。


  「なに見てんの?」

  「いや・・・。」

  「どっか、行きたいの?」

  「いや、どこ行くか。」

  「向こうの公園でやろ?」


そう言いながら近くの公園に向かう。


  「さすがに誰もいないねー。」

  「おい。酔っ払いがそんなことすると危ねーぞ。」


そんな梅の言葉に耳も貸さず
私は鉄パイプの橋をガシャガシャと音を立てて渡る。

スカートにヒールのまま、2mほどの高さに腰かけ
私を見上げる梅に笑いかける。


線香花火は全部で5本。

1本目。
大きく固まった火の玉は、あっという間に下に落ちてしまった。


  「あーあ。こいつ、全然がんばらなかったね。
   はい。次は梅ね。」


少し風も出てきて、火花が横に流れてしまう。
そして、最後の一本。

梅が当たり前のように私に手渡す。
私は慎重にライターで火をつける。

大きくなった赤い玉は、フルフルと風に揺れている。


  「なんか、今にも落ちそうじゃねーか?」

  「そんなことないよ。こいつはきっとこっから頑張る。」


その言葉に呼応するかのように、赤い玉は大きく細かい火花を散らし始めた。
パチパチという音とともに、オレンジ色の火花が目に飛び込んでくる。


  「きれーだね。」

  「綺麗だな。」


徐々に小さくなっていく火花が
ゆっくりと暗闇に消えていった。

こんな高い場所から花火をしたのなんて初めてだな
そんなことを考える。

そして。
私の手を離れた線香花火がひらひらと地面に落ちていくのを
鈍い頭で上から眺めていた。


  「おしまい。」


そう言って
思いきりジャンプする。


  「帰ろっか。」


さっきまであれほど話していたのが嘘みたいに
二人とも黙りこくって歩き出す。


  「じゃぁ。」

  「これ。ありがとな。」

  「うん、またね。バイバイ。」


うん。
はっきりと分かった。

私、やっぱり。
梅のことが好きだ

by nobiko9 | 2007-09-06 09:20 | 恋愛スル


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