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2007年 04月 06日
始まりの日。Part2
 
他の人よりも5分遅れて二次会のカラオケボックスに到着する。
部屋に入って、空いている席に隣同士に座る。

プロを目指していただけあって
彼の歌は桁外れに上手かった。

こういうのって。
ちょっと反則だよなぁ、と思った。


煙草を取り出すついでに携帯を見てみると
遅れてくる予定の上司から着信があった。

部屋の外に出て折り返すが
他の人と話しているらしく
すぐに留守電になってしまう。

しかたがないのでついでにトイレに行き
また彼の隣の席に戻った。


  「帰らなくて大丈夫?」

  「え?だってもう電車ないじゃん(笑)」

  「いや。電話かけに行ったから
   誰かさ。何かまずいんじゃないのかなと思って。」

  「あぁ。電話は上司ですよ。遅れてくるって言ってたから。
   私は心配してくれるような彼氏いないし。」


こんな会話すら
少しは私のことを気にかけてくれてるんじゃないかと
嬉しく思ってしまう。

そう。なんだか。
この人といると自惚れてしまいそうだ。

だって。その後も。
私がトイレに立った間に席が変わってて
でもしばらくしたら何気なく隣にきてくれて。

やっぱり悪く思われてはないと
期待もしてしまう・・・。


4時30分をまわって
そろそろ始発が動き出す頃

あまりの眠さに先に帰ろうと思った。


  「電車動いたし。私はそろそろ帰るね。」

  「そだね。まじであとで。連絡してね。」

  「うん。」


上司にだけにこっそりと挨拶をし
静かに扉を開けて駅に向かった。


始発から2本目の電車の中では
8割以上の乗客が目を瞑っていて

不自然な静けさが広がる。

私は。

もらった名刺を左手でいじりながら
右手に携帯電話を握り締めながら


さて。どうしたものかと考える。


まだカラオケボックスの中にいるのか
それとももう。外に出たのか。

すぐにメールするのも
がっついてると思われるかも。

悩んだ末に番号の登録だけをして
電話はコートのポケットにしまう。


ふと。顔を上げると。
そこには。

青白い桜が窓一面に広がっていて。

ぼぅっと光るそれらは
恐いくらいに綺麗で。

始まりそうで始まらない
終わりそうで終わらない

複雑な気分になった。


いろんなことが上手く運び過ぎると

あの角を曲がった瞬間に笑いながら
手ひどいしっぺ返しがくるんじゃないかと

いまいち信じきれない今は。

ただ。
瞼を閉じ。

呼吸を落ち着けるしかなかった。
 

by nobiko9 | 2007-04-06 06:55 | 恋愛スル


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