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2008年 02月 22日
4019 part6
 
しばらく、そうしていた


「早くこうしたかった。分かるだろ?
 あの人が帰るって言わないと帰れないし。」


抱きしめられたまま、耳元で彼の声が聞こえる

記憶ははっきりしていた
意識もはっきりしていた

その頭で「こういうことを言う男は本当に信用できない」と思っていた
と同時に「こういう分かりやすい男は可愛くて大好きだ」と思った

二人で同じタクシーに乗り込む

深夜に渋滞をつくるタクシーの群れを抜け、首都高を上る
シートに深く沈んだ視界には、夜とは思えないほど明るい東京が流れていった

運転手に行き先を告げてからはずっとキスをしていた

キスをしながら私の瞳に映る夜景は
嘘臭いほど綺麗だと思った


「ねぇ。俺、野比のことなんて呼べばいい?」

「"のび"でも"のびこ"でもいいよ。なんでもいい。
 私は?下の名前、ちゃん付けで呼んであげようか?」

「あはは。そのままでいいよ。」

「・・・・・・ふふふ。」

「なんだよ。」

「だめ。この状況、面白すぎる。」

「数時間前まで、こんなことになるなんて想像できなかったな。」

「ほんと。1軒目では普通に飲んでたのにね。」


彼の唇と舌の感触に慣れてきた頃、タクシーが到着した
コンビニで飲み物を買って歩き出す

彼が私の肩を抱いた
私はそれを振り払い、そのまま手を繋いだ


「なんで?こうされるの嫌い?」

「キライ。なんか守られてるみたいじゃん。」

「こっちとしては守りたい気なんだけどな。」

「手を繋いでるほうが好き。
 寄りかかってなくて一緒に歩いてる感じがするでしょ?」


風が強い
思わず肩をすくめる


「こっち側来なよ。風、そっちから吹いてる。」

「うーん。寒い・・・・・・。」

「この寒さがのびを正気に戻しそうで怖いよ。」

「正気って何よ?
 ここまで来て「帰る」とか言っちゃうんだ(笑)」


好きかどうかなんて考えてなかったけど
彼としたいと思っている気持ちは本当だった

それが単に性欲を刺激されたからかどうかなんて
あまり興味もないし、知ったところで意味がない

精神面からくる性欲のほうが高尚だなんて
いったい誰が決めたんだ

こんなふうにセックスすることが正気じゃないと言われたら
私は生まれてからずっと正気じゃないんだろう


誘われたわけでも誘ったわけでもない

したい気分になって相手の顔を見たら
相手も同じ気持ちだったということが、お互いに分かってしまっただけだ


お酒で記憶がなくなることはない
彼の言葉も視線も手の動きも、全て覚えている


彼はどうなんだろう

覚えているんだろうか


この寒さや、発した言葉や、その気持ちを。
 

by nobiko9 | 2008-02-22 13:58 | 恋愛スル


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