2008年 02月 22日
4019 part5
 
話題は彼女と私の違いだった

私より年上の彼女の良いところは何に対しても真面目なところだが
それが同時に欠点でもあり、いつも自分自身を苦しめているように見えた


「全部完璧にできると思っちゃうから大変なんだよ。
 100%なんてできないって分かってたら、随分楽になれると思うけどな。」

「でもさ、頑張ってできるなら頑張りたいの。」

「それって100%とか120%とか、下手したら200%くらい頑張っちゃうでしょ?
 正直、100%超えたあたりで破綻してるから。それなら80%できたほうが有意義だよ。
 そりゃさ、100%目指しては頑張るんだけど、いつもできるわけじゃないし。
 自分も嬉しいじゃん。わーい、できたーって。」

「別にどちらの考え方がどうだってわけではないんですよ。
 今からそういう考え方を変えろといっても彼女には無理だと思いますし。
 ただ常にそのスタンスを取るというのは、大変は大変ですよね。」


マスターが微笑みながらそう言った

そう、私は
最初から絶望して諦めている

自分がいかにダメな人間で、しょうもなくて、情けないかということを分かっているから
できないとか、無理だとか、マイナス条件が前提で思考が始まる

楽観的に希望を持つようなことは、傷つくのが怖くてできない


そんなことをみんなで話している最中も
笑い声に紛れた彼の手が止むことはなかった

右手は腰やお尻に、左手は膝や太ももの辺りを漂っていた
こいつは涼しい顔して何をやっているんだ

私は彼に向き直って言った


「ねぇ?分かってる?」

「ん?何が?」


真顔で問い返してくると同時に、左手が太ももの内側に滑り込んできた
上げそうになった声を抑えて左手を押し戻しながら、彼の耳元に囁く


「ほんとに、困る。」

「大丈夫。俺は、困らない。」

「そういうこと言ってるんじゃない。」

「グラス、空いてるよ。次は?」

「うーん。少し甘いやつ。」

「楽しいな(笑)」


確かに楽しい
空間は共有しているのに、二人の間にだけは違う時間が流れていた

カウンターの端では元上司が
以前このバーに大人数で来たことをマスターに怒られていた

その左側では彼女が泣き疲れてカウンターに突っ伏していた

私は彼の手の内でいいようにされていることにムカついていた

そして彼は、この状況を心から楽しんでいるようだった


ガタンッ


彼女がスツールから降り、トイレに駆け込んだ
しばらくすると青い顔で出てきた


「大丈夫?」

「うん・・・・・・。」

「そろそろ帰るか。」


元上司がそう言ったのを合図に、彼女を落ち着けてから店を出た
数時間でこんなに飲んだのは久しぶりだ

地上に出てタクシーを拾う
彼が彼女を乗せて行き先を告げた


「野比は?」

「俺、チケットもう一枚出せますから。とりあえず彼女、出しちゃってください。」


酔っ払った元上司は不審に思うことなく別のタクシーに乗り込んだ
その後姿を見ながら私は彼に問いかけた


「本当にもう一枚持ってるの?」

「ちょっと待って。あの人の乗ったタクシーが見えなくなるまで。」


そう言いながら財布の中を覗き込む

エンジン音が聞こえなくなった
スローモーションのように動いた彼と目が合ってそのまま


銀座の真ん中でキスをしていた。
 
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by nobiko9 | 2008-02-22 09:17 | 恋愛スル


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