2007年 03月 27日
ひょうさんとデートする。其の3。
 
風が冷たい。
桜が開花したなんて嘘みたいだ

しばらく間。駅前でタクシーを待つも。
終電なんかとっくに終わったこの時間。

まったく来る気配がない。

車どころか
人っ子一人いない。


  「大通りまで歩く?」


そう言って歩き出す。


いつもは人で溢れかえって
店の声が賑やかで、何色もの色が混じり合うこの道も

たかが
「見渡す限り誰もいない」
ということだけで

響くのは
自分達の足音と話す声だけだ
ということだけで

こんなにも幻想的な場面として
切り取られるのだと思った。


  「寒い?」

  「ううん。大丈夫だよ。
   酔いを醒ますにはちょうどいいかもね。」


「手をつないだら。あったかくなるよ。」
そう言おうとして、なんとか思いとどまった。

何かの拍子にひょうさんの左手が私の腰にまわって
かといって抱き寄せられるわけでもなくて。

避けたら避けたで不自然になるような
微妙な距離を保って歩いた。


よろけたフリをして
空気の輪を押し破る。


ゆっくりと10分ほど歩いて
大通りでタクシーを拾う。

奥に座って大きく息をついた私の左手に
ひょうさんの右手が重ねられた。

からまる指の一本一本が
身体からも思考からも切り離されたようで。

第三者がすぐ傍にいるという事実が
さらにその非現実感を増長させる。


流れる風景を眺めながら
「今日のごはんはおいしかったね」と
何でもないような話をしながら

タクシーは走る。


  「次の信号のところで」


タクシーを降りると
嫌な音をたてる風が頬をなでた。
思わず肩をすくめる。


  「今日は。ありがと。」


そう、言い終わるか終わらないかくらいで

彼に右手を引かれてか
私から体重を傾けてか
あるいはその両方なのか


二人の距離がなくなった。


抱き合ったまま
耳元で、ひょうさんが言う。


  「俺。のびちゃんのこと。大好きだよ。」

  「・・・・・・うん。」


しばらく寄り添ったあと
ゆっくりと身体を離し
うつむいたまま、私は言う。


  「バイバイ
 
[PR]

by nobiko9 | 2007-03-27 00:07 | 恋愛スル


<< ひょうさんとデートする。其の4。      ひょうさんとデートする。其の2。 >>