2010年 06月 07日
温泉。part6
 
ちょっと行きたいとこあるんだけど、いい?


そう言って彼が向かったのは

湖から数分の場所にある

知らなければ入らないような
狭い脇道を入って行った場所に悠然と佇む古い建物だった

突き当たりは少し広いスペースになっていて
数台の車が思い思いに並べられている

そこかしこから白い湯気がもうもうと上がっていて
奥に停めてある赤い車の隣の池も温泉のようだった


「部屋、空いてるか聞いてくるから待ってて。」


どうやら部屋貸しの日帰り温泉らしい

待っている間に何組かの客が建物から出てきて
車に乗り込んでいく


「大丈夫だって。行こう。」


飴色の引き戸をゆっくりと開けると
階段が目の前にあり奥は薄暗い

受付にいる年齢不詳のじいさんが
「18時までになります。」と無愛想に言った

本当に他の人がいるのだろうかと思うほど
館内はしんと静まり返っていて

歩くたびにギシギシと床が鳴る


ガラガラガラ


私たちの部屋は唯一の洋室らしく
10 畳ほどの広さに黒いソファが一組置かれている

壁には両手を広げたくらいの
黒を基調とした現代画が飾られていて

そして部屋の隅にはなぜか
小学校の第二音楽室にありそうなピアノがある


奇妙な部屋なのになぜか均衡が保たれていて
それは外の景色の素晴らしさを引き立てていた


降り続く小雨に映える緑

南から北に流れる白い影

その中に浮き上がる真っ赤な花


白い影はもはや霧なのか湯煙なのかも判然とせず
私はしばらくの間うっとりと外を眺めていた。
 
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by nobiko9 | 2010-06-07 20:12 | 恋愛スル


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